名古屋地方裁判所半田支部 昭和38年(ワ)38号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕第三、(被告の仮定抗弁について。)
被告は本件家屋につき必要費及び有益費を支出したのでその支払いあるまで本件家屋を留置する権利がある旨主張するからこの点に付き以下検討する。
証人(省略)の各証言、原告本人の供述並に現場検証の結果を綜合すれば
(1)本件家屋は初めから諸色なしで賃貸されていたもので現在は可成り老朽していること。
(2)原告は本件建物を昭和一三年一一月から訴外市野政に賃貸し同訴外人は右建物で料理店を経営していたが同訴外人は其の営業のために本件建物の畳、建具その他の諸色を新品で整備した。而して同訴外人は昭和二〇年頃から被告を同居させ同訴外人が本件家屋を退去した後は被告が之を事実上賃借使用して来たこと。
(3)訴外市野政は昭和二〇年頃の地震の後に自費で本件家屋全体の修理をしたこと。
(4)被告は、原告に対し本件家屋について雨漏りなどの修理方を申出たことが一、二回ある外、被告主張のような修理を申出でたことがないこと。
(5)原告は昭和三二年八月に本件家屋の南側の土台の取替、板囲その他の修理をなし、同三三年一一月頃屋根瓦全部を取外して屋根土を新しく使つて葺替をしたこと。
その為めに伊勢湾台風のときの被害は極めて少く殆んど修理の必要がなかつたこと
を認めることができる。而して前示証拠と被告本人の供述を綜合すれば
(6)被告は昭和二三年頃本件家屋でパチンコを経営していたがその後土木事業を始め昭和三四年秋頃被告の弟が結婚するというのでその必要上本件家屋の修理をなしたことがあり従つて被告主張の
(イ)昭和二三年五月三一日の修理は恐らくパチンコ営業開始のためのものであり
(ロ)昭和二九年二月三日の修理は土建業を営む必要上なしたものとみられ
(ハ)昭和三四年中の二回の修理は弟の結婚のため必要に迫られてなしたものかとも考えられるが、現場検証の結果によると、その各修理状況は相錯綜して判然とせず、果して如何なる修理をしたのか明らかでない。従つて鑑定人の鑑定に当つても一応被告のいうがままに修理されたものとして鑑定を命ずる外なかつた次第である。従つて鑑定人(省略)の鑑定書中修理費内訳明細書記載の通りの修理が果してなされたか否かにも多大の疑問がある。従つて修理個所並に修理費に関する被告本人の供述は信用し難い。
(7)被告主張の修理費の内先ず畳、建具その他の造作類の取替修理等について考究するに、本件家屋が所謂諸色なしの家屋であり而も被告入居当時は訴外市野政が入れた造作が現存して居り被告の居住には差支なかつた筈である。徒つて被告が仮令之等の造作を修理又は取替をしたとしても原告に対しその費用の償還を求めることはできない。
(8)次にコンクリート改修、壁、天井、床等の修理改造、電気給水、排水、ガス工事その他は仮りに之等の工事をしたとしても被告のパチンコ或は土建業の必要上一部模様替をなしたものと認められるので之亦本件家屋の為めの必要費又は有益費として原告にその償還を求めるのは不当である。
(9)屋根瓦の葺直しと雨漏の補修費については、原告は昭三三年一一月前記の通り屋根瓦の葺替をして居り伊勢湾台風のときも本件家屋は侵水もなかつたので、その直後原告が調査したところ殆んど修理の必要もなかつたことが認められるので之の点に関する被告本人並に被告側の立証はすべて信用し難い。
(10)現場検証の結果と被告本人の供述によると被告は本件家屋に被告の家族四名の外に土建業の使用人である訴外黒田進夫外四名の世帯合計十七名を同居させているのであつて、老朽した本件家屋を最大限に活用し且つ酷使しているものというべく、従つて仮令被告が多少の修理費を投じたとしても他面被告は五世帯を同居させることにより有形無形の利益を得て居る一方被告の酷使により本件家屋の損耗が甚だしいものと認められるから家主たる原告に之が償還を求めることは権利の濫用として法律上許されないものと謂わなければならない。
(11)従つて被告の仮定抗弁は之を採用することができない。(織田尚生)